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2014年7月28日―「郵便配達・・・・」事件

 「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1942年、イタリア)を観た。恐怖映画だということを、どこかで読んだことがあり、題名の不思議な吸引力から、いつかは観たいと思っていた映画の一つになっていた。それで今回DVDを買ったのだ。
 ところが、映画の中には、郵便配達夫もベルも出てこない。ハンサムで魅力的な若い男に惹かれた美貌の女性が、年上の肥満体の夫を交通事故に見せかけて殺す、という、外国映画にはお決まりの筋書きの内容だった。
 あらすじだけを述べればありきたりなのだが、もちろん、映画は素晴らしかったと思う。細かな表現が、架空の物語なのにリアリティを感じさせる。いつの間にか、その世界に入り込んだような、映画独特の錯覚を楽しめる上質の作品だったことは、ルキノ・ヴィスコンティ監督への敬意とともに記しておきたい。

 ここで、題名の謎が残る。原作の原題は「The Postman Always Rings Twice」=「郵便配達は二度ベルを鳴らす」なので、改変されてはいない。ただし、イタリア語版はOssessione,( 「妄執」の意)と改変されているのは、監督が、中身を表す題にしたからだろう。確かに、 「妄執」のほうが、映画の内容と、制作者の側の立場を表しているように思う。

 しかし、果たして、この映画が 「妄執」という題名だったら、私はこれを観ただろうか?おそらく、ノーである。他人の 「妄執」をわざわざ覗きたいとは思わないからだ。 「妄執」という題が、映画の筋書きにありがちな不倫、三角関係、夫殺しを暗示すれば、実際にその映画を見ようという動機は半減する。だから、やはり、この映画の題名は「郵便配達は二度ベルを鳴らす」で良かったのだと思う。
 学校では、題名は、内容や筆者の立場を集約したもの、あるいは象徴したものにするべきだと学んだように思う。しかし、今となっては、それは違う、と思う。題名は<読者や観客を作品に誘導するしかけ>になっていることを自覚するべきだろう。魅力的な入り口なら、読者や観客は入る。汚い、危ない、あるいは説教がましい、押しつけがましい入り口なら敬遠される。

 ところで、武田泰淳の作品で映画化されたものに「森と湖のまつり」「貴族の階段」「ひかりごけ」「白昼の通り魔」がある。題名自体が、とても魅力的なのだ。(他に「処刑の島」があるが、これは原題「流人島にて」が改変されている)
 もちろん、映画になっていない多くの作品の題名も、「いったい何が書かれているのか?」と思わせる吸引力がある。それでよいのではないだろうか?
 村上春樹氏も「ノルウェーの森」・・・ノルウェーのことが書かれていると思ったら、ビートルズの「ノルウェーの森」が流れていたと言うだけの関連で、なんだ、と思ったことがある。「羊をめぐる冒険」実は中身には全く感動しなかったが、「一体何がかかれているのか?」と思わせる題名のうまさには感服したことを思い出す。

 内容を端的に表現した語句が、良い題名になるのではなく、人を惹きつける力を持っている言葉が「良い題名」ということだろう。このブログの看板「出版日記」はどんなものだろう?あるいは、日々の記事の題名はふさわしいものか?自分の反省にもなる、「郵便配達・・・・」事件だった。
*最初、この記事は「題名は何を表すのか?」という題名にしていましたが、書きながら「郵便配達事件」のほうがインパクトがあるのではないかと思い、改めました。いかがでしょう?
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